コラム
アパレルブランド立ち上げ費用に「作った後」が入っていない — 在庫が届いた日から始まるコスト
アパレルブランドの立ち上げ費用というとOEMや小ロットの製造原価に目が行きますが、実際に資金と時間を奪うのは在庫が届いた後の検品・採寸・撮影・保管・梱包・発送です。個人や小規模でも使える発送代行の考え方を、EC運営と物流の両側をやっている立場から整理しました。
アパレルブランドの立ち上げ費用について書かれた記事は、探せばいくらでも出てきます。デザイン料、パターン、生地代、縫製工賃、版代。どれも丁寧にまとまっていて、初めて服を作る人が読めば全体像はだいたい掴めます。
ただ、それらを何本読んでも、ほぼ必ず抜け落ちている費用があります。
服が出来上がって、段ボールで自宅や事務所に届いた日から発生する費用です。
私たちは自社でアパレルECを複数モールで運営していて、同時に他社さんの在庫をお預かりして出荷する側の仕事もしています。つまり「売る側」と「捌く側」の両方を自分たちでやっている立場です。その両側から見ていると、ブランドを立ち上げた人が最初に手を止めるのは、たいてい製造工程ではなくその後ろだということがよく分かります。
この記事では、アパレルブランド立ち上げの費用のうち、試算表に行が立っていない「作った後」のコストについて整理します。製造工程の費用については、すでに詳しい記事が世の中にたくさんあるので、そちらに譲ります。
アパレルブランド立ち上げ費用の試算に「作った後」の行がない
まず、なぜ抜けるのかという話からです。
立ち上げ費用の解説記事を書いているのは、多くの場合作る側の人たちです。資材メーカー、OEM会社、パターンや縫製に強い会社、あるいは開業支援やネットショップのプラットフォーム。だから記事の解像度も自然と製造工程に寄ります。デザイン料の相場、パターン作成の単価、生地の最低ロット、縫製工賃。このあたりは調べればかなり正確な数字が出てきます。
一方で「届いた在庫をどうするか」は、作る側の担当範囲の外です。かといってECカートの会社の担当範囲でもありません。誰の記事のテーマにもならないまま、事業計画の空白として残るわけです。
そして厄介なことに、この空白はお金を払う前には見えず、在庫が届いた瞬間に一気に実体化します。しかもその時点では、すでに製造費用を払い終わっていて、部屋には段ボールが積まれている。引き返せない状態で初めて向き合うことになる、というのが一番よくあるパターンです。
初期費用と資金調達の全体像については他の記事が充実しているので、ここから先はその空白部分だけを具体的に見ていきます。
在庫が届いた日から始まる6つの作業
段ボールが届いてから、お客さまの手元に商品が渡るまでに挟まる工程を並べると、だいたいこうなります。
- 入荷・検品 — 発注どおりの品番・カラー・サイズ・数量が入っているかを数え、縫製不良、汚れ、ほつれ、ボタンの緩み、タグの付け忘れがないかを1点ずつ見る
- 採寸 — 着丈、身幅、肩幅、袖丈。同じ品番でもサイズ展開ぶん測る。ここを省くとサイズ違いの返品が増える
- 撮影と原稿 — 商品写真、着用カット、商品説明文の作成。いわゆる「ささげ」のうち、撮影・採寸・原稿の部分
- 保管 — 畳んで、品番とカラーとサイズが分かる状態で置く。畳みジワと日焼けを避けられる場所に
- 受注処理・ピッキング・梱包 — 注文を見て、棚から出して、畳み直して、梱包材に入れて、明細を入れる
- 発送・追跡 — 送り状を発行して、集荷に出して、追跡番号をお客さまに通知する
これを見て「思っていたより多い」と感じたなら、その感覚が正しいです。
重要なのは、これらは外注しない限り、お金ではなく自分の時間で払うことになるという点です。事業計画の費用欄がゼロ円のまま進むので、コストとして意識されにくい。でも実際には、ブランドオーナー本人の時間という、一番単価の高いリソースを毎日削り続けています。
自宅発送が破綻するのは「件数」ではなく「集中」
「何件くらいから外注を考えるべきか」という質問をよくいただきます。ここに、この業態特有の落とし穴があります。
月間の出荷件数を30で割って「1日あたり何件だから大丈夫」と考えると、判断を間違えます。インフルエンサー発のブランドやSNS起点のブランドは、注文が平らに来ません。
投稿した直後、ライブ配信の最中と直後、再入荷を告知した瞬間。この数時間に注文が一気に寄ります。平均すれば1日数件でも、実際には月の注文の大半が数日に固まるという分布になります。
そしてこの「寄る日」は、ブランドにとって一番大事な日でもあります。せっかく反応が来ているのに、発送作業に追われて次の投稿が打てない。お客さまへの返信が止まる。企画が進まない。
つまり本当のコストは、梱包材や送料ではなく、一番伸びるはずのタイミングで、ブランドの本体である発信と企画が止まることです。これは会計上どこにも計上されませんが、事業のスピードに一番効きます。
もうひとつ、遅れは信用に直結します。到着が遅れたときに真っ先に減るのはリピートで、これも数字には出にくいコストです。
判断の目安としては、件数そのものより次のような兆候を見たほうが実態に合います。
- 投稿やライブの翌日が、発送作業でまるまる潰れている
- 発送が追いつかないことを理由に、告知や再入荷のタイミングを自分で遅らせている
- 在庫が生活空間を侵食していて、置き場所の都合で仕入れ数を決めている
- 返品や交換の対応が後回しになり、対応漏れが出はじめている
このうち2つ以上に当てはまったら、件数に関係なく考えどきです。
小ロットで受けてくれる発送代行が少ない理由
では外に出そう、と探しはじめると、今度は別の壁にぶつかります。規模が小さいと、そもそも受けてもらえないことがあるという壁です。
理由は主に2つあります。
ひとつは、多くの倉庫が月間出荷件数の下限を設けていること。倉庫側は保管スペースと人員をあらかじめ確保して待つビジネスなので、出荷が少ないと採算が合いません。だから「月◯件から」というラインを引きます。立ち上げ期のブランドはここに届かないことが多く、問い合わせの段階でお断りされます。
もうひとつは、アパレルが単純に手間のかかる商材であること。雑貨や食品と違って、同じ商品でも色とサイズの数だけSKUが増えます。畳み方ひとつで印象が変わるので梱包にも気を使う。値札やブランドタグを付ける流通加工が入ることも多い。返品率が他ジャンルより高く、戻ってきた商品を再販できるか判定する作業まで発生します。
この結果、「アパレル対応可」と書いてあっても、実際に見積もりを取ると細かい工程がすべてオプション課金だった、ということが起こります。「対応できる」と「慣れている」は別だと考えておいたほうが安全です。
探すときに最初に確認しておくと後で困らないのは、このあたりです。
- 月間出荷件数の下限があるか、立ち上げ期はどう扱われるか
- 検品・採寸・タグ付けが標準作業に含まれるのか、オプションなのか
- 色・サイズ違いをSKU単位で在庫管理してもらえるか
- 返品が来たときの再検品と再販可否の判定を、どちらが担当するか
- 注文が数日に集中する波を許容できるか(平準化を前提にした料金設計になっていないか)
- ネットショップやモールの受注データとどう連携するか
料金の内訳(保管料・入庫料・出荷料・返品処理料・オプション料)がどう構成されているかは、アパレル発送代行の料金相場と選び方で費用体系ごとに整理しています。どの工程を任せてどこから自社で持つか、という線引きの実例はアパレル物流代行はどこまで任せるかにまとめました。
固定費を持たずに始めるという選択
在庫まわりの費用は、持ち方を選べます。
自分で場所を借りて、棚を入れて、人を雇えば、それは固定費になります。売れない月も同じ額が出ていきます。立ち上げ期のブランドにとって、これはかなり重い選択です。
一方、外部に預けて使った分だけ払う形にすれば、変動費に近づきます。出荷が伸びた月は増え、静かな月は減る。売上の波と支出の波が揃うので、資金繰りが読みやすくなります。
どちらが正解というものではなく、判断材料は次のあたりです。
- 出荷の波の大きさ — 波が大きいほど、固定費は不利になります
- SKUの数 — 色とサイズが増えるほど、自前の在庫管理は急に難しくなります
- 返品率 — 高いほど、判定と再保管の手間が効いてきます
- 自分の時間の使いどころ — 企画とSNSに時間を戻したときに、売上がどれだけ動きそうか
最後の項目が、実は一番大きいと考えています。立ち上げ期のブランドの成長速度は、たいていオーナー本人が企画と発信にどれだけ時間を割けるかで決まります。その時間を梱包に使い続けるかどうかは、コストの問題であると同時に、戦略の問題です。
そして立ち上げ費用の試算をするなら、製造原価と同じ表の中に、この「作った後」の行も並べておくべきだと思います。数字が入っていなくても、行があるだけで、在庫が届いた日の景色はかなり変わります。
よくある質問
Q. 発送代行は個人事業主でも使えますか
契約上は問題ないことがほとんどです。ネックになるのは事業形態より出荷規模で、月間の下限に届くかどうかが実際の分かれ目になります。立ち上げ期は下限の扱いを最初に確認してください。
Q. 月に何件から頼めますか
倉庫によってかなり幅があります。数百件からのところもあれば、小規模から相談に応じるところもあります。件数だけでなく、SKU数と保管量、そして注文が集中する波を受けられるかも合わせて聞くと、実態に近い回答がもらえます。
Q. 梱包資材はどちらが用意しますか
これは事業者によって分かれます。倉庫側の標準資材を使う場合と、ブランド側が指定資材を支給する場合があります。オリジナルの梱包でブランド体験を作りたいなら、支給が可能かと、その保管をどう扱うかを先に確認しておくと安全です。
Q. アパレルOEMの小ロットは何枚からですか
生地の最低ロットと縫製工場の受注単位で決まるため、品目によって大きく変わります。ニット系と布帛系でも違います。ここは製造側の会社に直接確認するのが確実です。ただ、ロットを絞れば絞るほど1枚あたりの原価は上がるので、初回ロットを決めるときは、売り切るまでの保管期間と保管コストも一緒に見ておくと判断を誤りません。
Q. 立ち上げ費用はいくら見ておけばいいですか
製造原価の目安は他の記事に詳しいので譲りますが、ひとつだけ付け加えるなら、製造費用を使い切る前提で予算を組まないことをおすすめします。在庫が届いた後にも作業と費用が発生します。ここを見ていないと、商品はあるのに売り場に出せない、という一番もったいない状態になります。
まとめ
アパレルブランドの立ち上げ費用の話は、どうしても「作るまで」に寄ります。そこは情報も豊富で、相場もはっきりしています。
見えにくいのは、その後ろです。検品して、採寸して、撮って、畳んで、しまって、出して、送る。この一連は誰かがやらなければ商品がお客さまに届かない工程で、外注しなければブランドオーナー自身の時間で払うことになります。
そしてその時間は、本来なら企画と発信に使えたはずの時間です。
私たちは自社EC運営と、他社さんの在庫をお預かりする物流の両方をやっているので、「売る側の都合」と「捌く側の都合」が食い違うポイントをひととおり踏んできました。どこまで自分で持って、どこから外に出すか。その線引きの相談であれば、規模が小さい段階でも遠慮なくお声がけください。