コラム
ネットショップ開業の失敗例と原因 — 1年目の定番と、2年目に出る4つの落とし穴
ネットショップ開業でよくある失敗例(集客・コンセプト・信頼・利益計算)と、その原因を整理。さらに実際に店が止まりやすい2年目の落とし穴4つ(何を売るかを決めきらない・在庫を現金で見ない・一人で抱える・モールを増やす)と、失敗しないための開業前チェックリストを、13モールを運営してきた立場から解説します。
ネットショップ開業の失敗について書かれた記事はたくさんあります。読むとだいたい同じことが書いてあります。集客できない、デザインが良くない、決済手段が足りない、コンセプトが曖昧。そして最後は「こうすれば失敗しません」で締められます。
どれも間違ってはいません。ただ、実際に店をやっていると、少し違う感触があります。
開業して半年で止まる店より、2年目に入ってから静かに止まる店のほうが多い、という感触です。
しかも2年目に止まる原因は、1年目のうちには症状として出てきません。売上は少しずつ伸びていて、注文も来ていて、本人としては順調なつもりでいる。そのあいだに、後から取り返しのつかない種類の選択がいくつも積み上がっています。
私たちは自社で複数のモールとブランドを並行して運営していて、その過程で内製化もモール展開も一通りやってきました。うまくいったことより、後から「あれは判断を間違えた」と分かったことのほうが多いです。この記事では、まず開業直後によくある失敗例を短く整理したうえで、本題の開業1年目には気づけず、2年目に効いてくる失敗を4つに分けて見ていきます。
開業前の仕入れ先選びでつまずくパターンについては、別記事のネットショップ開業の仕入れで失敗する5パターンにまとめています。この記事は「開業した後」の話です。
ネットショップ開業でよくある失敗例 — 1年目に出るもの
先に、開業して最初の1年で表に出やすい失敗を並べておきます。どれも「失敗 ネットショップ」で調べると必ず出てくる定番で、原因と打ち手もはっきりしています。
| 失敗例 | よくある原因 | 最初の打ち手 |
|---|---|---|
| 集客できず、アクセスがほとんど来ない | 自社サイトだけで始め、検索・SNS・モールのどこからも人を呼ぶ導線がない | 集客の入口を1つ決めて集中する(モールの検索、SNS、広告のどれか) |
| 来ても買われない | 誰に何を売る店なのか(コンセプト)が伝わらず、商品ページの情報も足りない | 商品写真・サイズ・素材の情報を揃え、店の説明を一文で言えるようにする |
| 信頼されない | 会社情報・特定商取引法の表記・問い合わせ先が見つけにくい、レビューがない | 運営者情報と連絡先を目立つ場所に置き、最初のレビューを集める工夫をする |
| 売れているのに利益が残らない | 手数料・送料・梱包資材・決済手数料を入れずに価格を決めている | 1件売れたときに手元に残る金額を、費用をすべて引いて計算し直す |
このあたりは1年目のうちに症状として見えるので、気づきさえすれば直せます。やっかいなのは、ここを乗り越えて売上が立ち始めた後に来る失敗です。
ネットショップ開業の失敗は、1年目には症状が出ない4つ
失敗1: 「何を売るか」を決めきらないまま走り出す
開業時に扱う商品を決めるとき、多くの人は「とりあえず幅広く」を選びます。何が売れるか分からないので、当然の判断に見えます。
問題は、この状態が2年目もそのまま続くことです。
幅広く置いていると、売上は少しずつ立ちます。だから「絞る」という判断をするきっかけが訪れません。ところが商品が散っていると、ターゲットが定まらず、リピーターが育ちません。一度買ってくれたお客さまが次に来たとき、その人向けの商品が並んでいないからです。新規のお客さまを取り続けないと売上が維持できない構造になり、集客コストだけが上がり続けます。
さらに、店の輪郭がぼやけていると、選ばれる理由が価格しか残りません。実店舗と違って店構えや接客で差を出せないぶん、ネットショップは価格競争に落ちるのが早いです。同じ商品を扱う店が並んだとき、比較されるのが値段だけになると、体力のある店が勝ちます。
「集客がうまくいかない」という症状は、たいていここから来ています。集客の手法を変えても効かないのは、原因が集客側にないからです。
失敗2: 在庫を「売上」で見ていて「現金」で見ていない
これは特にアパレルや雑貨で効いてきます。
商品を仕入れた時点で、現金は在庫に変わります。売れるまで戻ってきません。ところが多くの人は、在庫を「これから立つ売上」として見ます。100万円分の在庫を「100万円の売上見込み」と考えてしまう。
実際には、在庫は売れ残るリスクを抱えた現金です。しかも季節商材なら、時間が経つほど価値が落ちます。
1年目は仕入れ量が小さいので、これが問題として表面化しません。2年目、売上が伸びてきて仕入れを増やしたときに、初めて現金が足りなくなります。売上は伸びているのに手元が苦しい、という状態です。
利益が出ているかどうかと、現金が回っているかどうかは別の話です。ここを分けて見ていないと、伸びている最中に止まります。
失敗3: 一人で全工程を持ったまま規模を伸ばす
ネットショップは一人で始められます。それが良いところでもあります。
商品を選んで、写真を撮って、説明文を書いて、登録して、SNSに投稿して、注文を見て、梱包して、発送して、問い合わせに答える。最初はこれで回ります。
問題は、注文が増えても工程が減らないことです。売上が2倍になれば、作業も2倍近くになります。そして作業に使う時間が増えるほど、商品選定や企画のような「売上を作る側」の時間が削られます。
ここで起きるのは、伸び悩みではなく頭打ちです。一日は24時間しかないので、自分の作業時間が上限になります。しかもその上限に近づくほど、新しいことに使える時間がゼロに近づくので、そこから抜け出す手も打てなくなります。
外に出す判断は、忙しくなってからでは遅いです。忙しくなってからだと、引き継ぐための準備をする時間すらありません。
「外に出す」には、人に渡すだけでなく仕組みに渡す選択肢もあります。私たちが作業を外注ではなく社内の仕組みに置き換えていった経緯は、ネットショップ運営を外注せず内製化した話と気づいたら社内ツールが20個超えていたに書いています。
失敗4: モールを増やすことを成長だと思う
売上を伸ばそうとしたとき、出店先を増やすのは分かりやすい手です。楽天、Amazon、Yahoo!、自社サイト。並べれば売上は足し算で増えるように見えます。
実際に増えます。ただし作業も足し算で増えます。
モールごとに商品登録の形式が違い、画像の規定が違い、検索の仕組みが違い、管理画面が違います。在庫を共通で持つなら連携の仕組みが要ります。同じ商品を売っていても、モールの数だけ運用が発生します。
自社は複数のモールを並行運営していますが、これは「増やしたから伸びた」のではなく、増やしても回るように仕組みを作ったから維持できているというのが実態です。順番が逆だと、店舗数だけ増えて一つひとつの手入れが行き届かなくなります。中途半端な店が並ぶと、どのモールでも評価が上がりません。
どのモールから始めるべきかについてはAmazonと楽天の違いは?出店・出品するならどっちが先かに、両方運営している立場からの判断軸を書いています。
「何を売るか」を先送りにした店から順に止まる
4つのうち、いちばん根が深いのが1つ目です。
「ネットショップで何を売ればいいか」は、開業前にいちばん検索される問いのひとつです。そして開業してからも、多くの人が答えを持たないまま走り続けます。
ここで難しいのは、答えが最初から分かる必要はないということです。むしろ最初は分かりません。売ってみないと、誰が買ってくれるのかは見えないからです。
問題は、売ってみた後に決める工程が置かれていないことです。
1年経てば、どの商品にリピートが付いたか、どの商品が一度きりだったか、どの商品が問い合わせを増やしただけだったかがデータとして残ります。ここを見て絞り込む作業をしないと、いつまでも「幅広く置いている店」のままになります。
絞るのは怖い判断です。売れている商品を減らすわけではなくても、「これは扱わない」と決めるのは売上を捨てるように感じます。ただ、絞らないとその店が誰のための店なのかがお客さまに伝わりません。伝わらない店にはリピーターが付かず、リピーターが付かない店は集客コストが下がりません。
戻れる失敗と、戻れない失敗
もうひとつ、書いておきたいことがあります。
失敗しないための記事はたくさんありますが、実際に店をやっていると失敗は避けられません。判断の材料が揃ってから決められることのほうが少ないからです。
なので大事なのは、失敗を避けることより、戻れる失敗と戻れない失敗を分けておくことだと考えています。
戻れる失敗
- 商品ページの構成、写真、説明文 — 何度でも作り直せます
- 集客の手法、SNSの運用 — 効かなければ変えられます
- 価格の見せ方、特集の組み方 — 試して戻せます
戻りにくい失敗
- 在庫 — 現金が形を変えたもので、売れるまで戻りません
- 固定費の契約 — 倉庫、人員、月額のサービス。増やすのは一瞬、減らすのは時間がかかります
- 販売してしまったお客さまへの対応 — 信用は一度落ちると回復に時間がかかります
この線引きがあると、判断のスピードが変わります。戻れる側は迷わず試す。戻れない側だけ慎重に決める。全部を慎重に決めようとすると、何も試せないまま時間だけ過ぎます。
開業して2年目に止まる店の多くは、戻れる側で慎重になりすぎて、戻れない側で大胆になっている、という逆の配分になっています。
2年目からでも打てる手
すでに開業していて、上のどれかに心当たりがある場合。打てる手は3つです。
絞る — 直近1年の実績で、リピートが付いた商品と付かなかった商品を分けます。付かなかったもののうち、在庫が残っているものは価格を下げてでも現金に戻します。品揃えを削るのが目的ではなく、店の輪郭をはっきりさせるのが目的です。
数える — 利益と現金を分けて見ます。在庫にいくら現金が寝ているか、そのうちどれだけが半年以上動いていないか。この2つの数字を月1回でも出すようにすると、仕入れの判断が変わります。次の仕入れに回せる資金がどれだけあるのかも、ここで初めて見えます。
渡す — 自分がやっている工程を書き出して、「自分でなくてもできる作業」に印を付けます。梱包と発送はその筆頭です。渡す先が人でも仕組みでも構いません。大事なのは、売上を作る側の時間を確保することです。
うちも一通りやりましたが、最初に効いたのは「数える」でした。感覚で仕入れていたときと、在庫に寝ている現金を数え始めてからでは、判断の精度がまったく違いました。
失敗しないための開業前チェックリスト
これから開業する方向けに、1年目の失敗と2年目の落とし穴の両方を先回りで潰すための確認項目をまとめておきます。全部に答えが出ていなくても構いません。答えが出ていない項目を自覚しておくだけで、判断を先送りにしている場所が見えます。
- 誰に何を売る店かを一文で言えるか(1年後に絞り込むつもりなら、何を見て絞るかも決めてあるか)
- 集客の入口をどこに置くか決めてあるか(モールの検索・SNS・広告のうち、まず1つ)
- 1件売れたときに残る金額を、手数料・送料・資材・決済手数料まで引いて計算してあるか
- 仕入れた在庫を現金として見る準備があるか(在庫金額と、半年動かない在庫を月1回数えるか)
- 運営者情報・特定商取引法の表記・問い合わせ先がすぐ見つかる場所にあるか
- 自分がやる作業を書き出して、自分でなくてもできる作業に印を付けてあるか
- 出店先を増やす前に、増やしても回る仕組み(在庫連携・商品登録の手順)があるか
- 戻れる判断と戻れない判断(在庫・固定費の契約)を分けて考えているか
よくある質問
Q. ネットショップが軌道に乗るまでどれくらいかかりますか
商材と販路によって幅がありますが、少なくとも1年は「試す期間」と考えたほうが安全です。重要なのは期間そのものより、その1年で判断に使えるデータが溜まる設計になっているかです。何が売れたかだけでなく、誰がリピートしたかを見られるようにしておくと、2年目の絞り込みが早くなります。
Q. 結局、何を売ればいいですか
最初から正解を出す必要はありません。ただし「売ってみて、1年後に絞る」という工程を最初から予定に入れておいてください。絞る前提がないまま幅広く置き続けるのが、いちばん時間を失うパターンです。
Q. 一人でどこまで運営できますか
作業だけなら、かなりのところまで一人で回せます。問題は、回せてしまうために外に出す判断が遅れることです。自分の作業時間が売上の上限になっていると感じたら、その時点で考えどきです。
Q. やめどきはどう判断すればいいですか
売上や利益より、在庫と固定費を見てください。売れる見込みのない在庫と、売上に関係なく毎月出ていく固定費。この2つが手元の現金を上回りそうなら、続けるか畳むかではなく、まず縮める判断が先です。縮めてから考えても遅くありません。廃業という選択の前に考えたいことは、ネットショップは詰みじゃない — 中小EC廃業率の真実にもまとめています。
まとめ
ネットショップ開業の失敗は、開業直後に派手に起きるものより、2年目に静かに効いてくるもののほうが多いと感じています。
何を売るかを決めきらない。在庫を現金で見ていない。一人で全工程を持ったまま伸ばす。モールを増やすことを成長だと思う。どれも1年目には症状が出ません。だから気づいたときには、在庫と固定費という戻りにくいものが積み上がっています。
失敗しない方法はありません。ただ、戻れる失敗と戻れない失敗を分けておくことはできます。それだけで、打てる手の数がかなり変わります。